大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1257号 判決 1974年3月28日
控訴人
加藤善朗
右訴訟代理人
秋山泰雄
外三名
被控訴人
国
右代表者
中村梅吉
右指定代理人
藤浦照生
外五名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。控訴人が西陣郵便局集配課計画係の業務以外の業務に従事する義務のないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠の提出・援用・認否は、左記のほか、原判決事実記載と同一であるから、これを引用する。
(控訴人)
郵政省は、全国各地の職場で全逓信労働組合(以下全逓という)。各支部との団体交渉事項としては、労働基準法三六条に基く時間外労働協定および同法二四条に基く賃金控除協定しかありえないとして、それ以外のすべての事項についての団体交渉を拒否する方針を強行し、全逓の組合運動方針に忠実でない職員の育成と結集に努めたり、第二組合たる全日本郵政労働組合の拡大に便宜を供与したりして、全逓の組織弱体化を図つている。京都西陣郵便局長が昭和四二年五月二七日控訴人に対してした配置換は、郵政省のとつている右のような施策を背景にして行われたものにほかならない。また集配課外務係における班制度の実施に伴う主任発令は、外務職員に関するものであつて同課計画係の組替とは何ら関連のないものである。控訴人は几帳面な性格であり、事務能力に優れており計画係としての勤務は優秀であつたから、もし同局長において配置換を行わなければならないとすれば、控訴人の希望した庶務課等に配置換するのが適切であつたのである。要するに、同局長において、控訴人を郵便課通常係に配置換しなければならない正当な理由はなかつたのである。
(証拠)<省略>
理由
一控訴人は郵政省職員であるが昭和三五年一二月六日から京都西陣郵便局集配計画係員として同局に勤務していたところ、同局長斎藤次郎が昭和四二年五月二七日人事移動通知書および口頭をもつて控訴人に対し郵便課通常係に勤務することを命ずる旨の配転命令をしたことは当事者間に争がない。
二まず、右配転(配置換)命令が任命権者である西陣郵便局長の「行政庁の処分」(行訴法三条二項)であるかどうかについて考えてみる。控訴人は郵政省職員であつて、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)二条一項イにいう郵便等の事業(企業)に勤務する一般職に属する国家公務員である。ところで、郵政省職員を含む五現業公務員の職務と責任の特殊性に基づいて、日本国有鉄道等公共企業体の職員にも適用される公労法が、国家公務員法(以下国公法という。)の特例として、現業公務員に適用される(国公法附則一三条、公労法四〇条二項)けれども、公労法は国公法一条と精神を同じくするものである(国公法附則一三条)。したがつて、現業公務員に公労法が適用されるからといつて、直ちに、その勤務関係をもつて私企業の従業員のそれと同じく私法契約関係であるということはできない。営利主義および自由競争原理に立つ私企業においては、労働者側の利潤の分配要求の自由も当然に是認せられ、労働者が団体を結成して使用者と対等の立場において団体交渉をなし、賃金その他の労働条件を集団的に決定して協約を結び、あるいは同盟罷業等を行つてその交渉の行詰りの解決を図ることが、何らの制約なしに許されるのを原則としている。これと全く同一のことが、そのまま、現業公務員の勤務関係に認められるべきでないことは、その職務の公共性と地位の特殊性に照らして当然であるといわねばならない(最高裁昭和四八年四月二五日判決民集二七巻四号参照)。したがつて、現業公務員につき、国公法のうち一般職の国家公務員たる身分と不可分のものは、その適用を除外されておらず(公労法四〇条一・二項参照)、その適用を除外されていない国公法三五条は「……その任命権者は、法律又は人事院規則に別段の定のある場合を除いては、採用、昇任、降任又は転任のいずれか一の方法により、職員を任命することができる。……」と規定(なお郵政省設置法二〇条は「郵政省に置かれる職員の任免、昇任、懲戒その他人事管理に関する事項については国家公務員法の定めるところによる」と規定する。)しており、国公法三五条にいう「転任」には「配置換」(人事院規則八―一二第六条)が含まれるところ、採用、昇任、降任については、それぞれ国公法三六条、三七条、七五条、七八条が要件法規としてその要件を定めているけれども、配置換(転任)については要件法規は定められていない。したがつて、国公法三五条は、配置換につき当該公務員の同意を要せず、かつ任命権者の公権力の行使としての配置換をするについて裁量を許容したものと解すべきである。現業公務員の勤務関係を実質上私法契約関係とし、その配置換の処分をもつて形式的行政処分であると解する見解は、採用できない。してみると、西陣郵便局長が控訴人に対してした前記配転命令は、「行政庁の処分」であるといわなければならない。
三控訴人は、右配転命令は重大かつ明白な瑕疵があり、当然無効であると主張し、その理由を掲げているので検討する。(1)まず、控訴人は右配転命令は本人の同意を要すると主張するけれども、その同意を要しないことは前記のとおりである。したがつて控訴人の右主張は採用できない。(2)次に、右配転命令は、裁量権の範囲を逸脱しまたは裁量権を濫用したもの、仮にそうでないとしても不当労働行為に当ると主張するけれども、右主張をいずれも採用できない理由は、成立に争のない甲第一五号証および当審証人城戸幸雄の証言によつても右主張を認めるに足りないと判断するほか、原判決理由三および四(原判決二四枚目裏九行目から三一枚目表九行目まで)と同一であるから、これを引用する。してみると西陣郵便局長は右配転命令をなすについて、事実(控訴人主張の前記各消極的要件事実)の誤認はないから、重大な瑕疵はないものというべく、その誤認が明白であるか否かにつき判断するまでもなく、控訴人の当然無効の主張は採用することができない。
そうすると、右配転命令は有効であつて、控訴人は西陣郵便局郵便課通常係の業務に従事する義務があるものというべく、控訴人の本訴消極的確認請求は理由がないといわねばならない。
四よつて、結局右と趣旨を同じくする原判決は相当であるから、控訴人の本件控訴はこれを棄却するべく、控訴費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用して主文のとおり判決する。
(山内敏彦 阪井昱朗 宮地英雄)